アーリィーは天幕に入ると、控えていたメイドたちに「自分でやるから下がっていいよ」と言って、俺だけを残した。 「引き分けなんかじゃない。彼の拳のほうが速かった。ボクは、負けた……」 途端に悔しげに顔を歪ませるアーリィー。人が見ていないのをいいことに、彼女は身をひるがえすと、俺の胸に顔をうずめてきた。 「勝ったと、思ったんだ……」 でも負けを悟った、と。俺はアーリィーの細い身体をそっと抱きしめてやる。 こんな華奢きゃしゃな女の子が、あの戦士として鍛えられた公爵と戦ったのだ。ここ最近、一緒にダンジョンに行ったり、練習に付き合ってアーリィーはめきめきと腕を上げていた。 フロストドラゴンや黒の巨人シェイプシフターと戦い、度胸もついた。ずいぶんと逞しくなってきたと思うし、ジャルジーもあれで相当な実力者だと見てわかった。それに互角以上に渡り合った。 ![](https://img.altema.jp/houkaistarrail/kakudaiyou/syuzinkou02.jpg)